2011年10月03日

奈良弘仁寺あたりの山の辺の道

弘仁寺のある奈良市高樋町あたりは五ヶ谷川と菩提山川の合流する扇状地で、なだらかな山裾に広が
る稲田と背後の大和高原に連なる小高い山々とが巧みに調和する、奈良市郊外の中でも一際美しい風
景を見せてくれる。

 s-PA018321虚空蔵山谷地棚田.jpg
 虚空蔵山の南の狭い谷地を下る棚田

地元の人はこのあたりのことを「清澄の里」と誇らしげに言うが、そのことは奈良の人々にもあまり
知られていないと思う。平城京に都があつた頃、藤原仲麻呂等都人の別荘があった地域で清澄の里と
呼ばれていたことに由来する。1200年以上前の話である。
しかしそれよりもこの土地が今も昔と変わることなく風光明媚な自然のままであることのほうに驚か
される。奈良市と天理市の市境にあったことが幸いしたのかこの一角だけは都市化から逃れることが
できたのだと思う。

 s-PA018386み.jpg s-PA018332稲架.jpg
 籾がらと玄米を選別する農具「箕」 今では珍しい稲干「ハサ掛け」、屋根は透明ビニール葺きに変わった

弘仁寺のある虚空蔵山のすぐ西は天理市和爾町となる。その市境を南北に山の辺の道が走っていたと
思われるが、この地区は平成19年までに完了した大規模な圃場整備のためかつての面影は消え、何の
予備知識なくそれらしき道筋を見つけることは難しい。

堀池春峰氏(1918〜2001)が南都佛教第10号(1961)に寄稿した「山の辺への道の古代寺院と氏族」
に、『(虚空蔵絵図に)虚空蔵山の西方、山口明神と願興寺の中間を南北に走る道は「願興寺東横道
也」とみえ、これはやや東南して「大道也」と記載されている。即ち「山の辺の道」で現在も奈良道
と伝えられ、道幅は狭小になっているが現存している。』と記している。山口明神も願興寺も現存し
ないが、堀池氏のいう山の辺の道=奈良道は舗装され車の通行に快適な道として今にある。
だが、その道の上に立って見ても山の辺の道のイメージは全然浮かばない。堀池氏の寄稿から50年、
半世紀が経過しているのだ、いや1500年以上も前にあったとされる道を求めることが無理なことなの
だから。
 
 s-PA028436山の辺の道.jpg 和邇遺跡・弘仁寺周辺地形図.jpg
 先史時代の幻の古道「山の辺の道」は今 

山の辺の道は桜井市金屋から奈良市の春日大社に至るかつて実在した歴史上の道だが、弘仁寺の山を
隔てたすぐ南側の一帯は、1965年12月に開通した名阪国道と、東大寺山遺跡の上に1970年に竣工し
たシャープ総合開発センターの出現により、天理市と奈良市の間の山の辺の道のロマンはそこで完全
に分断され消滅してしまった。更に1995年の白川ダムの完成(白川ため池拡幅工事)がとどめをさした
とも言えよう。

 s-PA018401左こくうぞう.jpg 
 山の辺の道の標識の下に文政四年(1821)の石の道標が
「左こくうぞう 右いがいせ」


現在近畿日本鉄道が提供するハイキングマップ「北・山の辺の道」は、高樋町あたりに限って云えば
かなり不適当なルートを示す。山の辺の道は奈良盆地の東山麓、標高70〜80mライン付近を通ってい
たはずなのだが、このマップでは高樋町の標高120mライン通る。しかも弘仁寺の参道を(標高160m)を
登り境内を通過して参道を下ることになる。(弘仁寺の境内を通過するには入山料200円を投入する必
要があるが・・・他に迂回路はない。

 s-PA018406弘仁寺シオン.jpg
 虚空蔵山弘仁寺のシオン 

初秋の今、弘仁寺の境内はシオンの花が見頃。この時季野山を行けばふつうに目にする花だが、奈良
時代かそれ以前に中国から渡来したらしい。シオン(紫苑)の根は鎮咳と去痰の薬効があり、今日も製
薬として利用されている。薬用として導入されたものが、花の美しさゆえ観賞用に栽培され普及する
につれ野生化していった。
奈良で撮った草木の由来を調べてみると、今では見向きもされない多くの雑草や雑木が食用や薬用あ
るいは生活用具の材料として使われていたことを知り驚かされる。

弘仁寺境内に咲くシオンは先々代の御住職の奥方が好きで植えた事がはじまりで、境内に群生するよ
うになったという。シオンは仏花に供するので農家の畑でもよく栽培されているのを目にする。

 s-PA028441朝顔.jpg
 夏の名残 夕風に吹かれ寒そう 

山の辺の道を探してこれまでに何度も訪れた高樋町だが、ここはやはり「清澄の里」として語り継が
れる美しい自然を残していって欲しいと思う。深まる秋にしたがいもっと美しい景色を、これからも
見せ欲しい。


※「虚空蔵絵図」: 東大寺図書館蔵 鎌倉時代から南北朝初期に描かれたもので弘仁寺や遺跡願興寺
の位置・現状を示す唯一の資料。
※弘仁寺ホームページ
http://www8.ocn.ne.jp/~kouninji/
posted by ハマー at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 山の辺の道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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