2013年12月23日

奈良の冬 写真俳句(2)

森村誠一「写真俳句の愉しみ」から
『写真は読んで字のごとく、被写体の情報を忠実に写し取ってくれる。芸術写真には感性が求められるが、俳句写真には情報が欲しい。特に俳句には、一瞥しただけでは隠れている情報が写真には写し取られる。写真の情報から俳句を創造することによって、感性の出番となる。一見平凡な写真を俳句と結び付けることによって、非凡な表現世界を創造することが可能となる。(森村誠一「写真俳句の愉しみ」五頁)』

一瞥しただけでは隠れている情報とはなんだろうか。単に撮影時に見落としただけというものではあるまい。見えているものが持つ、被写体の多面性ということなのか。「感性の出番」とは、自己の美意識、価値観などの多様性ということなのだろうか。

本郷の又兵衛桜で良く知られた奈良県宇陀市(旧大宇陀町)と桜井市の市境に位置する音羽三山の上空は、関空と羽田・成田、中部の国際空港を結ぶ航路に当たりひっきりなしに大型ジェット機が飛来する。写真は日没直後、すれ違った時を撮った一枚。

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 冬の空 航路まじわる ことはなく

長い時間見ていたが、意外なことに上空で機体が交差する瞬間はこの二機以外には無かった。衝突するんじゃないかと心配したが両機は何事もなく飛び去って行った。ジェット機の速度は時速800kmから一千kmを超えると聞くから、通過時の両機間の速度は瞬間時速二千km近くになる。地上から見ていてもあっと言う間のことだった。
 
 防空の 刃まじえる 今日の空

写真を前にして思い浮かんだ言葉は「防空識別圏」だった。今だにニュースなどで報じられるが、尖閣諸島を巡る領土問題に端を発していることであり、2010年9月に海上保安庁巡視船と中国漁船海上衝突以後の緊張がついに空域までに拡大した訳で更なる不安を煽る。かの国は機会を見つけ旗を立てに上陸するだろうか?。かつて大韓航空機がミグ戦闘機のミサイル攻撃で撃墜されたたことを思い起こす。絶対に刃(やいば)をまじえる事態に発展しないことをただただ祈る。

 飛ぶ夢を 今も見ている 冬の空

いつの頃からか覚えていないが晴れた日にはつい空を見渡してしまう。空港が常滑の中部国際空港に移る以前は、家の上空が小牧空港に離発着する飛行機の航路になっていたので見上げればほぼ確実に機体を見ることができた。小学校に上がる頃から兄達の影響で零戦や隼などの戦闘機に興味を持ち続け還暦を過ぎた今も変わらない。パイロットになりたいと思った。今でも、もし「一日署長」みたいにどんな仕事にでも就かせてもらえるという機会があれば、戦闘機の操縦士を経験したいと思っている。

次の写真は大神神社近くの四世紀末頃に築造された茅原大墓古墳の上から丸池を撮った一枚。池は墳墓の周濠の一部と考えられる。日射しのせいかあまり寒さは感じなかったが、風が吹いていたようだ。撮影時には気がつかなかったが画面の右隅に二羽の水鳥が写りこんでいた。平板になりがちなところを風の起こす波紋がキラキラと光り救ってくれている。

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 冬木立水面に青の讃えおり

  
山の辺の道筋に、近現代の著名人が揮毫した38基の万葉歌碑が建てられている。歌人、俳人、画家、茶人、作家ほか奈良縁の人たちである。そのうちの一基、柿本人麻呂の歌を棟方志功の版画に収めた画賛を彫った石碑が桧原神社に向かう桜井市穴師の車谷にある。1200年以上の時を隔て万葉歌人と版画家のまさに夢のコラボレーションである。

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しかしこの石碑、道路から一段と低く、道行く人も見過ごしてしまう場所にある。これは県道改修の際、路面が50cmほど嵩上げされてそのようになってしまったようだ。多くの歴史的文化財が道路工事の末に損なわれたり消失して行く不幸な例の一つに近い。思わず絶叫!

 歌碑を見よ 山の辺の道に 歌碑を見よ
 万葉と 昭和偉ならび 山辺道
 山辺道 万葉昭和 枯れ薄

 写真を見て創る俳句に挑戦してみた。思いついた言葉を五七五に並べることはさして難しくないし興味深い。しかし創った俳句を読み返してみても、俳人の創った句を読んだ時のような感動はない。そもそもボキャブラリーが全く足りない。こればかりは学習を続ける他に方法はないのかも。

 写真俳句に挑戦とりあえず終了

音羽三山 音羽山(851m)、経ケ塚山(889m)、熊ケ岳(904m)奈良盆地南東側の山並


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2013年12月20日

残秋の奈良 写真俳句 ⑴


以前から気になっていた森村誠一氏の「写真俳句の愉しみ」を読んだ。ノウハウ本ではない。制作過程の説明を序章としているが、実質は推理小説作家森村氏自身のエッセイ集である。写真と俳句と対になったエッセイを読み進めていくうちに、写真俳句のなんたるかがじわじわとそして確実に理解できる仕組みになっている。

『俳句にも写真にも表現したいモチーフがある。俳句と写真が合体した写真俳句のモチーフはなにか。俳写同格であるが、その時の状況によって、俳句に重点が置かれる場合と、写真に傾斜している作品に分かれるであろう。それは一句一写ごとに異なる。そこに写真俳句の愉しみの一つがある(11頁)』

「モチーフ」とは、「題材」「思想」「動機」など平たく言えば「きっかけ」のようなことだろう。コンセプト(狙い)と言っても良い。写真の題材やコンセプトに重点を置くか、目にした光景に触発された想いを俳句に結晶させるかということであろうか。次の句は撮影時のコンセプト「逆光」を句にしてみた。


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逆光を 待ち焦がれたり 山モミジ 

太陽の位置が高くなる昼間の紅葉は葉裏から太陽の光を透して見たほうが見ごたえがある。3時を少し回ったばかりだというのに谷間の空には次々と雲が流れ込み、夕暮れのように暗い。今さっきまで人々を感嘆させた紅葉は色を失い、陰鬱とした冷気につつまれている。唐突に、明るい日射しが戻り一瞬の風が葉を散らす。急いでレンズを向けたが、日はまた翳ってしまった。

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わが身なるか 朽ちゆく際ぞ 花もみじ

十二月も終わろうという頃になってもなお秋を感じる光景に出会う時がある。
雨上がりの午後奈良山の遊歩道、道筋に捨て置かれた古竹に舞い落ちたカエデの葉が貼り付いている。紅葉に染まった野山の秋を思い起こさせる。
上の句は、写真を見ていてなんだが先が見えて来た今の自分に似ているなと思い創った。花もみじというよりも「濡れ落ち葉」の方が適当でかもしれない。上五の字余りがちょっと気にいっている。
 我を見る 朽ちゆく際の 濡れ落ち葉

今回写真俳句に挑戦してみようと思ったのは、森村氏の『俳句を始めるときは誰でも素人、あまり難しく考える必要はありません。むしろ写真俳句は、俳句も写真もたいしたことがない場合の方が効力を発揮する。お互いが補いあって、意外な魅力が引き出されるんです(133頁)』という文章に触発されたことによる。そうか、だったら俳句を創ってデスストックとなっている写真にも日の目を見せてやろうかと。


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ときめきと 淋しさを知る 始発駅
身を寄せて 黄泉の旅路を 冬の川

猿沢池南西角、池を九の字に囲むように水路がある。排水溝のように細い川だが「率川(いさがわ)」というれっきとした名前を持つ。春日山に発源し佐保川に入る。その水路にかかる石橋(嶋嘉橋)から舟形の島に祀られた石仏群を見ることができる。それまでに何度も渡っているのに全く気づかなかった。そこが橋という認識もなかった。率川の船地蔵と呼ばれている。後で知ったことだが川の改修や、大雨などで流れ着いた無縁仏をまとめて祀ったものらしい。このような例は奈良ではよく聞く話である。

古都奈良では路傍や辻々に石仏を見ることは珍しいことではない。野山を歩いていてもさまざまな石仏によく出会う。かつて仏都と呼ばれ1300年の歴史を持つ街だ、これまで一体どれだけの生命が誕生し、消えて行っただろう。その生の証として石仏は存在するが、この船地蔵あまりにも淋しすぎる。身を寄せ合って浄土への旅立ちを待つ人のように思える。どちらかというと俳句に重点を置いたつもりだが、いい俳句ができたと思っている。自画自賛?

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踏み入れば 陽の明るさや 秋の里山


奈良山は常緑樹と落葉樹が混在する里山である。夏の間、森は入山を拒むがごとくに鬱蒼とした姿を見せる。12月、意を決っして(秋夏は山蛭や蛇が出るし、猪も怖い)山道を上がって行くと、背の高い大きな木はすっかり葉を落として尾根道は意外に明るかった。

森村氏『難しく考えることはない。要は、自分の思うがままに感性に従って発句し、シャッターを切ることである。一句一写、これはと思った瞬間を切り取ることによって、自分だけの新たな表現世界がある(13頁)』と言う。思うがままに俳句は創れないが、シャッターなら気軽にいくらでも切れる。そのうちの一枚。

「写真俳句の愉しみ 四季の彩り」著者 森村誠一 06年4月30日発行

残秋は秋の末、晩秋など季節を示す言葉だが、視覚的な表現として使われている場合も多い。よく似た言葉に「残暑」があるがこちらは言葉そのまま立秋を過ぎた後の暑さを言い表し、季節を表す言葉ではない。11月の上旬、暦の上では立冬を境に季節は秋から冬に変わるが、視覚的にも体感的にもまだまだ秋の入口といった感じだ。ところで気象用語の「冬日」は一日の最低気温が0度C以下の日を言う。ちなみに奈良市では11月30日0度を記録した。
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2013年12月09日

東大寺の紅葉・初冬の一日

東大寺の秋はナンキンハゼの紅葉から始まる。
他の樹種に先駆けて十一月初めには色変わり始め中旬頃にピークを迎える。

その独特な色模様を知ったのは五年前のこと、奈良で写真を撮り始めて二度目の秋だった。
若草山の麓に残る東大寺棚田跡のナンキンハゼの紅葉のあまりの美しさに、何故だか本気でカメラを筆と絵具に取変えたいと思った。もっとも描く技術も経験もないのだが。

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しかしそれ以後いつも見頃を逃し続け今年も見ずじまいに終わってしまった。
そのわけよくよく考えて見ると、ナンキンハゼが紅葉する時期、我が家の周りの樹々はまだまだその気配もなく、そのため、その頃(11月中旬)に東大寺に出向かなければならないことに気付けず、いつもチャンスを逸してしまっていたようだ。

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今年の秋は夏の酷暑をひきずっていつまでも気温の高い日が続き、このままでは紅葉を見られないのではないかと心配されたが、十一月下旬日本列島は唐突に真冬の寒気に襲われ逆に例年以上に鮮やかな紅葉となった。

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東大寺境内のカエデやモミジはまさに黄色、黄赤、深黄、赤・緋・紅・朱など文字に置き換るのが難しいほどの色を持つ。モミジは日を経るに従って葉の色を変えてゆくが、日の当たり加減や風の当たり具合によって多彩なグラデーションを持っていることにいつも驚かされる。見る方向、時間、天候によって本当に印象が異なる。
もしこれはと思う一樹に出会えたなら、朝から晩までまた日を変えて何日でも葉が散り尽くすまで見尽くしたいと本気で思っている。

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東大寺の見所は大仏殿、南大門から奈良公園に続く南表のエリアと二月堂、正倉院、戒壇院ほかの塔頭が点在する周辺部に分けることができる。紅葉を見るなら周辺の方が興味深い。ただ東大寺の寺領はほんとうに広大なので、片方のエリアを見るだけでも日の出から日没までかかりそうだ。

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もっとも、足腰に瑕疵のある自分のような年寄りは一日中歩き回るのはつらい。体力的に難しい。東大寺には大仏殿や南大門付近以外の場所に身体を休めるベンチなどの施設がないので、いつも途中でへばってしまう。それよりも疲れた体や心では美しい景色を敏感にキャッチすることはできい。結局今回の撮影行では予定の半分も回れなかったが、まあ一期一会なのだからと変に自分に言い聞かせ、今年の紅葉刈りは夕日を見ずに早々と終了。来年また奈良に行きましょう、と。

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2013年12月05日

奈良高取城址の紅葉

城跡に見る紅葉にもの悲しさを感じるのは何故だろう。
この高取城、明治の初めに廃城となったが、城垣は人里離れた山頂にあったことが幸いして往時の形を残した。天守や櫓、城郭の跡には、舞い落ちた種子から芽生えた楓やもみじが大木となり枝を拡げる。

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日本一の山城と言われた豪壮な姿は廃城後も明治20年頃まで麓から仰ぎ見ることができたという。しかし百数十年の時を経て、周囲3kmもの広大な城郭も樹々に覆われ、今では高取山の頂に城のあったことすら想像できない。もし城が生きていた頃のように生茂る樹々をすっかり切り払えば、全長3500mの石垣は「天空の城」と呼ぶにふさわしい日本一いや世界一の絶景としてそれこそ世界文化遺産として注目を浴びるだろうに。

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城跡で見る紅葉にもの悲しさを感じるのは、そこに今は無いその城の悠久の歴史を感じ取るからだ。景色が話しかけてくる。知らぬ間に歴史のスパイラルを下って行く。物語のさ中に迷い込んでしまうのだ。だが風に散る紅葉のように、想いは初冬の冷たい風に吹かれて一瞬にして掻き消えてしまた、わずかな余韻を残して。

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気がつけば陽はすでに高く、三時間以上も城跡を徘徊していたようだ。炎のように鮮烈な赤や黄の紅葉と、高くそびえ立つ石垣に囲われた異空間が、歴史ロマンの迷路に誘い込ませたのだろう。
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